[Album Review]Frank Ocean – blond ~翼を手に入れたスターが誘うR’n’Bの新たな地平

コントリビューターといえば、同じリストにはジェイムス・ブレイク、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドといったU.K.人脈(フランクは約1年前にロンドンに引っ越している)や、ビヨンセ、ファレル・ウィリアムズ、ケンドリック・ラマー、アウトキャストのアンドレ3000といったUSの大物から、ブライアン・イーノ、エリオット・スミス、デヴィッド・ボウイ、ザ・ビートルズといった重鎮までそうそうたる名前が並んでおり、これがアルバムのどこに絡んでくるのかを探すのも本作のひとつの楽しみだ。ここで詳らかにしては面白くないが、ザ・ビートルズの「Here, There and Everywhere」のサンプリングや、エリオット・スミスの詩の引用など直接的に作品の一部を借りているものもあれば、現在もっとも影響力のあるラッパーであるケンドリック・ラマーや、US音楽界の女王に長く君臨し続けるビヨンセがありえないようなチョイ役どころに使われていたり、影響源として挙がっている名前かなと思うものもあったりで、聴いてわからないものをついついネットの情報で答え合わせしたくなるギーク垂涎のトリビアに満ちている。

数々のメディアで執筆するライターSteven.J.Horowitz 氏のツイッター(@speriod )にアップされアッという間に拡散したコントリビューターリストの写真。

数々のメディアで執筆するライターSteven.J.Horowitz 氏のツイッター(@speriod )にアップされアッという間に拡散したコントリビューターリストの写真。

 

さて、もともと繊細な感情のひだを詞にするのがとても上手なフランク・オーシャンだが、そのライティングの妙は本作でも余すところなく発揮されている。頻出ワードはドラッグ・車(フランク・オーシャンは車狂いで有名)・セックス(を想起させるワード)なのだが、それらはよくあるパーティライフ万歳な使われかたとはまったく違う小道具としてリリックの世界に登場する。

オープニング・トラック「Nikes」では、お金とドラッグが飛び交い、リッチマンに近づこうと爪を研ぐ女性たちであふれるギラギラのパーティナイトの情景が描かれるが、そこにいるのはきらびやかさの裏で一歩引いてその空虚さを冷静に見つめるフランクだ。また、成り上がった自分をおとしめてやろうとするやつらと対峙しながら過ぎ行く、気の休まらない毎日を歌った「Night」、一人になってマリワナを吸うことが現実から逃れ、心の平安を得る唯一の手段になっていることが吐露される「Solo」といった曲からは、『channel ORANGE』後に、自分を取り巻く環境と周りの人の態度が急激に変化していったことや、有名になるにつれ孤独に親しみを覚えるようになっていったことへの、彼の心の動きを感じ取ることができる。

 

OFWGKTAのタイラー・ザ・クリエイターから贈られたらしき新作リリースお祝いのケーキを持ってはにかむtumblrポスト。Tシャツの胸に”I AM NOT FAMOUS ANYMORE"と含みのある言葉が・・・。

OFWGKTAのタイラー・ザ・クリエイターから贈られたらしき新作リリースお祝いのケーキを持ってはにかむtumblrポスト。Tシャツの胸に”I AM NOT FAMOUS ANYMORE”と含みのある言葉が・・・。

 

また、過去の恋人との思い出を振り返る「Ivy」や「Seigfried」、子供のころに感じた美しい夏の終わりを回想する「Self Control」や「Skyline To」は、ドラッグがもたらす感覚に身も心もゆだねる中で、有名になる前の自分の人生を懐かしんでいるかのようなやるせなさに満ちている。フランク・オーシャンはゲイ(バイセクシャル)をカミングアウトしており、それを加味すると相手が同性であるゆえの苦しさやもどかしさも浮かび上がってくるのだが、セクシュアリティのいかんにかかわらず、もっと言えば、今までに一度もドラッグを使用したことがなかったとしても、別に車が好きじゃなくても、フランク・オーシャンと何一つ共通点がなかったとしても、彼のリリックには、聴く者それぞれの記憶や感情にグッとコネクトしてくる普遍性があり、これらの曲は泣きのコード進行とも合わせて心の琴線にグラグラと揺さぶりをかけてくる。

その他、アメリカでくすぶる人種問題への言及、ドラッグで亡くなった仲間や先輩ミュージシャンへの追悼や、スラングを用いたダブルミーニング、ラップ的な言葉遊びのディテールなど、ひとつひとつ丁寧にひも解いてみたくなる詩の世界。これも本作の魅力のひとつであろうと思う。

(次ページへ続く)

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