[Album Review]Frank Ocean – blond ~翼を手に入れたスターが誘うR’n’Bの新たな地平

2015年の半ばから、新作リリースをほのめかすようなSNSポストをドロップ→発売日に何も起こらない→新たな発売日を予告→やはりリリースされない、ということを16回も繰り返し、“出る出る詐欺”でファンを翻弄し続けてきたフランク・オーシャンがついに、本当に、再始動した。それも、思いもよらないリリース方法で発表された、驚きに満ちた作品を引っ提げて。

まずは、ざっと経歴を振り返ってみよう。L.A.のヒップ・ホップ・コレクティブ、OFWGKTAから、2011年に無料配信のミックス・テープ『Nostalgia, ULTRA』とともに彗星のように現れたフランク・オーシャンは、早くも翌年に『channel ORANGE』でメジャー・デビューを果たす。すでに高い前評判を得ていたこともあり、この作品はいきなりビルボード初登場2位に入ったばかりか、その年のグラミーで2冠を獲得し、一気に彼をスターダムへと押し上げた。

しかし、常に好奇の目にさらされ、人々の無遠慮な噂話の的になるスターには、いろいろな意味でタフさが必要とされる。まだ20代半ばの、センシュアルな歌詞を書く青年には、そんなスターという立場はあまりしっくりこなかったよう。『channel ORANGE』の熱狂がおさまると、フランク・オーシャンは表舞台からそっと姿を消し、たまにSNSをポツリとアップデートする以外にはじっと息をひそめるようになっていった。待ちに待たれた本作『blond』は、その4年もの沈黙期間にフランクの頭に浮かんださまざまな考えを取り出して結晶化したかのような、至極パーソナルで、意外なまでにピュアな内容のアルバムだ。

 

オフィシャルサイトへのポスト。 何度も発売日を延期したことを 図書館の本の貸し出しカードを使って自らネタにしている。

 

まず一聴して驚くのは、そのミニマルで折衷的なサウンド。歌い回しはR&B/ヒップ・ホップのそれなのにビートが無い曲も多く、ローファイ・インディ・バンドのような浮遊感のあるファジーなギター音、温かみのあるゴスペル風のオルガンやエレキピアノ、清涼感のあるストリングスを用いたアレンジが意表をつく。洗練された都会的なR&Bを地で行く前作『channel ORANGE』とは180度といっていいほどの違いで、フランクの特徴ある声を、また新しいイメージで引き立てると同時に、メロディラインの良さにぐっとスポットが当たるようになった。大げさかもしれないが、R&BをR&Bたらしめてきた要素が欠けていてもR&Bって成立するんだ、と新しい地平を見せられてハッとさせられる思いのするアルバムなのだ。

また、音数がそれほど多くないのに、スカスカな感じがせず、音に豊かな奥行があるのには、プロダクションにも相当神経を使ったことがうかがえる。本作のコントリビューターには、デヴィッド・ボウイの遺作『Black Star』やジェイミーxxの『In Colour』を手掛けたJoe Viscianoや、エイミー・ワインハウスの『Back To Black』やアデルの『21』のグラミー受賞に貢献したTom Elmhirstなど実力派のサウンド・エンジニアが名を連ねており、彼らの仕事の賜物だろう。

(次ページへ続く)

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