イギーをまとったシーンの要-ジョシュ・ホーミ

先月末リリースされたイギー・ポップの新作『Post Pop Depression』。この作品には、ストゥージズの初期の3作や、デヴィッド・ボウイのプロデュースのもとベルリンで制作された『Lust For Life』、『The Idiot』などのイギーのソロ作たちに匹敵する約40年ぶりの傑作だとの声がここ日本を含め世界的に挙がっている。異論はない。2016年に入ってからリリースされたロック・アルバムの中でも最も素晴らしい作品の一つだろうから。しかもチャートの方でもこれまでの彼自身の最高位を大幅に上回る全英5位と全米17位だ(英国での最高位は『Lust For Life』の28位、米国では『The Idiot』の72位とどちらも約40年前)。そう、いまシーンにはイギーが、イギーの久々の快作が求められていたのだ。

確かに本作はイギー・ポップの長い長いキャリアの中で新たな金字塔に成り得る作品だし、68歳の彼がいまここまで創作意欲に溢れ、相変わらず停滞期から抜け出せずにいるロック・シーンの中でロックの本来的な魅力の一つ、衝動性やこちらの体を刺激するようなパワーを伴った作品を作っている、というのは賞賛されるべき事実だ。しかし、この『Post Pop Depression』においては共作した影の主役であるクイーンズ・オブ・ストーン・エイジ、イーグルス・オブ・ザ・デス・メタルなどでお馴染み、ジョシュ・ホーミの力があまりに大きいのではないかと思えてならない。

思えばクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(以下QOTSA)とは00年代屈指のロック・アンセムの一つ、「No One Knows」を携えたアルバム『Songs For The Deaf』で一躍大物バンドの仲間入りを果たし、いまではグローバルなレベルでロック・フェスのヘッドライナーを張れる数少ないアクトでありながら、ここ日本では十分に評価されてこなかったバンドの一組(最後に来日したのはいつなのやら…)。ならばこの『Post Pop Depression』が本年の最重要ロック・アルバムの一枚となりそうなこの機会こそがQOTSAを、そしてジョシュ・ホーミという人物を再訪するチャンス。そういまからでも遅くないのです!

本稿では、ジョシュ・ホーミがイギー・ポップからどんなロックのエッセンスを吸収し、それを自らのバンドの作品にアウトプットしたのか、そして最終的にイギーのキャリアの最終章のスタイルを完成させたのかを探ることを通して、この『Post Pop Depression』が2010年代のロック・シーンの中ではどんな意味を持つのか考えてみる。(山本大地)

IggyPopGardenia Iggy Pop Josh Homme pic

イギーの要素が加わって誕生したQOTSAサウンド

イギーの新作『Post Pop Depression』を共作したジョシュ・ホーミは、今回多数のインタビューに答えているが、その中でも特に興味深かったのが、イギー・ポップの『Lust For Life』、『The Idiot』という2作について、「これら2作でイギー・ポップが成し遂げたことを自分では出来なかったのを実感したことが、カイアスから離れ、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの活動へと向かわせた」という旨の発言だ。
改めて思い出してみれば、ジョシュが1995年まで在籍していたストーナー・ロックの代表的バンド、カイアスは一時期メタリカのオープニング・アクトを務めていたことも象徴するように、ハードロック、メタル譲りのヘヴィなサウンド色も強かった。しかし、ジョシュがその後結成したQOTSAは、それまで彼がカイアスで取り組んでいたサウンドが土台にはありながらも、ロックの持つ衝動性やリスナーの肉体に訴えかけてくるようなエネルギーをよりシンプルな形で表現している。それが徐々に顕著になっていくのが批評家筋で高評価を獲得し、『Songs For The Deaf』でのブレイクに繋げた2001年作『Rated R』である。このアルバムからの楽曲を聴いていただければ、イギーやそれ以前のストゥ―ジズの影響が少なからず伺えるだろう。

Kyuss「Green Machine」 YouTube Preview Image Queens Of The Stone Age 『Rated R』収録「Feel Good Hit Of The Summer」 YouTube Preview Image その後ジョシュは、『Rated R』で開発したサウンドを発展させ、ハードロック・ファンではなく、インディ・ロック・ファンに通用するようなキャッチ―なフックのあるギター・リフを用いてお馴染みの代表曲たちを生み出していく。 こうしたジョシュの音楽的な変遷を考えていけば、 “イギー” は彼のキャリアを形成するうえで最も欠かせない人物だったことがわかるだろう。ザ・サイン・マガジンでも度々引用されているLCD・サウンドシステムのジェームス・マーフィのあの発言を拝借すれば、QOSTAのサウンドが確立されるまでのジョシュには「 “イギーが足りなかった” 」のである。

イギー・ポップ新作はジョシュ・ホーミ色全開!?

さて、こうしてイギーを纏(まと)ったことでいまに繋がる音楽性を確立したジョシュだが、彼が共作したイギー・ポップの新作『Post Pop Depression』はどのようにして生まれたのか。報じられている通りに辿れば、昨年の1月、イギーがジョシュ・ホーミに「一緒に曲を書かないか」とテキストを送ったことから始まり、お互いの持つ楽曲アイディアや詩など(更にイギーは自身の性生活についてのエッセイまで)をEメールで交換し合いながら、今年の初めにニュースになるまで、完全にシークレットで事が進んでいた、ということだ。

イギーは自身のソロ作、『Lust For Life』や『The Idiot』がどのような工程を通して制作されたかをジョシュに伝授し、ジョシュもまた本作に取り掛かるうえでこの2作を意識したという。しかしどうだろう、本作から最初に先行公開された「Break Into Your Heart」、「Gardenia」の2曲は、どちらもBPM102くらいのスロウでどっしりとしたトラックで、爆発的で荒々しいエネルギーに満ち溢れた『Lust For Life』の雰囲気とも、デヴィッド・ボウイのソング・ライティングの色の強い『The Idiot』とも異なる趣だ。イギーの勇ましさのあるボーカルはそのままながらも、スロウなサウンドには40年経たことで生まれた彼の貫録が強く、そして重くのしかかっている。その代わりにこれらの楽曲のサウンドが想起させるのは、QOTSAの最新作『…Like Clockwork』からのいくつかのシングル。大袈裟にいってしまえば「これら2曲はQOSTAの新曲、そしてそこにイギー・ポップがゲスト・ボーカルで参加している」といわれても何ら違和感がないくらいなのだ。

『Post Pop Depression』収録、「Break Into Your Heart」 YouTube Preview Image Queens Of The Stone Age 「I Sat By The Ocean」 YouTube Preview Image

これはただサウンド面に限った問題ではなく、普段のジョシュ・ホーミの歌い姿はイギーのそれを髣髴とさせるものだし、それもあって余計にQOSTAの曲っぽく聞こえてしまうのだろう。 他にも『Post Pop Depression』には全編に渡ってジョシュ・ホーミがギターを演奏しているというだけあって、QOTSAの時と大きく変わりのないギター・フレーズやエフェクトの使い方などが聴き取れる。「German Days」で聴けるイントロのうねるようなギター・リフもいかにもジョシュが得意とするようなものだろう。
プロデュースに携わった人物の色が影響されるのは当然のことではあるものの、それがあまりに強く映っているように思えたため、「ジョシュ・ホーミ色全開」というのが、先行公開されていた曲を聴いての直感的な印象であった。イギーから影響を受けたジョシュは、気づかぬ間にイギー(の作品)を自分色に染めてしまっていたのだ、というのは言い過ぎでもないだろう。
(次ページへ続く)

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