Anderson .Paak~ “「今」のモードに最もフィットしたアルバム” 『Malibu』を紐解く

ルーツへの造詣が可能にした、あらゆるジャンルとポップ・ミュージック史の接合

本作についてもう一点強調したい点はシンプルにその「音楽性」の幅の広さにある。 本作を既に手にした人はお気付きだろうが、この『Malibu』はネオ・ソウル(「The Water」)やジャズ(「Waterfall」)、更には90’s ヒップホップ(「Without You」)、ファンク(「Come Down」)、60’sソウル(「Celebrate」)、ブギー(「Am I Wrong」)、ゴスペル(「The Season」)、ブームバップ(「Room In Here」)……と、ありとあらゆる要素が並んでいるアルバムである。そしてそのそれぞれに対して “超” を付けたくなるほど忠実だ。しかし、全く持って雑多になっている印象などなく、一つの作品として、物語のように繋ぎ合わされている感じがするのは、曲間を繋ぐオーディオのサンプルや、「Put Me Thru」から「Am I Wrong」のように自然と次の曲へと移っていく構成の妙にもよるだろうが、やはり一番は彼が長いキャリアの中で磨いてきた音楽的素養に起因する部分が強いだろう。

「みんな “あらゆるジャンル、あらゆるアーティスト(の要素)を一緒にして曲を作るなんて無理だよ” って言うんだ。でもそう言われて俺はその “ルール” を破ってみせたくなったよ。やつらはこんな感じさ。 “トラップの曲の次にそのままファンク、それからR&Bなんて出来ないよ。一つ道を選ぶんだ” でも、それが俺の道だよ。俺は(周囲とは)違うことをするんだ。」 彼は昨年のNoiseyへのインタビューでこんなことを言っていた。そう、彼はまんまとやってのけた。あらゆるジャンルを折衷してみせるのは彼自身の野望の一つであったのだ。 また、彼はThe Free Nationalsと共に2013年にヤー・ヤー・ヤーズ、ニール・ヤング、ホワイト・ストライプス、ビートルズなどをカバーしたEP『Cover Art』を発表しているが、この作品のBandcampのページには興味深いことが記されている。 「1950年代、 “ブラック”・ブルースやR&Bアクトをリメイクすることで豊かなキャリアを築いた “ホワイト” のアーティストやバンドがたくさんいた。後に “ロックンロール” として知られることになるそれらは当時 “レイス・レコード” として知られていた。(中略)残念ながらそのオリジナルの作者たちはほとんどクレジットを得たり適切に相殺されることはなかったんだ。Anderson .Paakは同様のプロセスを(オリジナルに対して) “(発想・手法がという意味で)逆転の敬意(reverse homage)” を払うことで行った。」 確かにこのEPであらゆる時代のロックの名曲たちは、ヒップホップ、R&B、ファンクという元の楽曲とは正反対= “reverse” なサウンドへと塗り替えられている。 60年代から現代まで、あらゆるディケイドの遺産を接合し、パック流のサイケデリックなファンク・ミュージックに落とし込んだこの『Malibu』は、こうしてルーツへの敬意を常に心に留めて、あらゆるジャンルを繋ぎ合わせることに果敢に取り組んできたパークの成果として生まれたといえよう。

“2016年” のシーンの流れの中にいかにフィットしたか

さて、 “バンド・サウンド、あるいはライブ演奏を重視” し、 “あらゆるジャンルを見事に繋ぎあわせた” この『Malibu』は、2016年の初めにおいてどんな場所に位置し、どんな意味を持つのか。 ここ数年程といえば、シーンの流れをガラッと変えるほどの「ムーブメント」や新たな「ジャンル」というのはめっきり現れなくなってしまったものの、筆者自身二つの当たり前のようなことを再確認させられてしまっていた。

 一つは、「バンド」、あるいは「ナマ演奏のバンドによって作られるサウンド」の魅力だ。相変わらず世界的に “ロック・バンド” には元気がないが、ヒップホップ~R&B寄りのポップ・ミュージックの世界では「バンド演奏」によるサウンドはしっかりと有効な手段として効いている。 分かりやすいところなら “ナイル・ロジャースが大きく貢献したダフト・パンクの『Random Access Memories』ブルーノ・マーズ「Treasure」が象徴するようなディスコ・ブギーのブーム・再評価” 、 “ディアンジェロフライング・ロータスケンドリック・ラマーの新作の新世代ジャズ・ミュージシャンをフックアップしたサウンド” 、 “ミゲルフランク・オーシャンらオルタナR&B勢” ~ “ジ・インターネットチャンス・ザ・ラッパー周辺ハイエイタス・カイヨーテ(本作収録の「Without You」には彼らの「Molasses」がサンプルされている)、フォニー・ピープルらヒップホップ・R&Bバンドたち” が挙げられる。そしてロックでもアラバマ・シェイクスリオン・ブリッジズなどR&Bやソウルへのルーツの濃い作品が目立っていた。 ひとえにこれは、ここ最近ではチャートからは姿を消しつつあるEDMや一部の産業ロック的なバンドたちに飽き飽きしたリスナー側が行き着いた “需要” という面もあるだろうし、あるいはテクノロジーが生み出してきたものをナマの音で更新するという作り手側の側面もあるだろう。

もう一つは、音楽はその歴史を継承しながら発展するということ。もちろん中にはルーツ色の薄い全くの新しいタイプの作品が革新的な一枚になることもある。しかし、いまに続くポップ・ミュージックでさえ約60年の歴史を持っておりその至る所にヒントがあることは前述のアーティスト群の作品が示してきた。特に2015年のアルバム=ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』はサウンド面であらゆるブラック・ミュージックを中心にしながら、ラストでは2 パックへ愛を捧げ、レディオヘッド、スフィアン・スティーブンスにもレファレンスを置くことでその約60年の歴史をつなぎ合わせたような側面もあったはず。 どうだろう。近年のヒップホップ、R&Bが提示したバンド演奏の可能性、ポップ・ミュージックの歴史との結びつき、この2つは『Malibu』の “バンド・サウンド、あるいはライブ演奏を重視” し、 “あらゆるジャンルを見事に繋ぎあわせた” というポイントとマッチしていないだろうか。だからこそ、『Malibu』は近年の流れの中で見事にフィットした、極めてモダンで2016年的な作品だといえるのだ。そして、それをほんの半年前までほぼ無名だったミュージシャンが成し遂げたということこそ、近年のこの流れをより顕在化し、決定的にしているといえる。

MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218) MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218)
ANDERSON .PAAK

EMPIRE / STEEL WOOL
売り上げランキング : 59063

Amazonで詳しく見る by AZlink

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です