The Weeknd~2015年のポップスターはこうして生まれた

2015年前半、「Uptown Funk」のチャート席巻によってマーク・ロンソンとブルーノ・マーズが世界的なメインストリーム・ポップシーンの中心にいたことは、まだまだ記憶に新しいだろう。80年代、プリンスやモリス・デイなどにより作られたポップ・サウンド(ミネアポリス・サウンドと括られることも)をモダナイズしたこの曲は、10年代の「Get Lucky」や「Happy」、更には「Blurred Lines」に続くタイムレスなポップ・ソングとして、世代、国を超えたセンセーションとなった。

このようにアメリカ国内、あるいはイギリス国内のみでもなく、英語圏を超えて世界的なヒットとなるというのは、時代を代表するポップ・ソングの絶対条件であろう。
この夏、その「Uptown Funk」同様に80年代のサウンドをベースにした大文字のポップ・ソングが世界的な大ヒットを巻き起こした。それがカナダ出身のシンガー、ザ・ウィークエンドによる「Can’t Feel My Face」だ。マイケル・ジャクソンの楽曲とも比較されるこの曲は全米3週連続1位を初め世界多数の国でヒットを記録している。さらに、ウィークエンドはこの楽曲が1位を記録している間にも、他に「Earned It」、「The Hills」の2枚のシングルを同時にトップ10にランクインさせた。結局最新のチャートでは「The Hills」が「Can’t Feel My Face」に取って代わり1位となったばかりか(本記事公開時、4週連続1位となっている)、この絶好のタイミングで発売されたニュー・アルバム『Beauty Behind The Madness』も3週連続1位を記録し、文字通り彼は現在のメインストリーム・ポップシーンの主役に間違いなく躍り出ているのだ。
そもそもウィークエンドがメインストリームのシーンに名を馳せるようになったのもここ1年あまりの出来事である。それ以前の彼といえば、00年代終盤に端を発するR&Bシーンの新たな動きの中で登場してきた “カルト・スター” といった感じの立ち位置。インディ的な場所でスポットライトを当てられていた彼が、2015年の夏、ジャンルを超え、世界的に支持を受ける一人のアーティストへと大きく飛躍したのだ。
今回のFeatureでは、そうした彼のここまでの経緯に沿う形で、ウィークエンドことエイベル・テスファイがいかにして新世代のR&Bシーンの中で強い支持を獲得し、そのうえで現在の「ポップ・スター」という立ち位置に躍り出るに至ったのか、解明していく。(山本大地)

Weeknd, The official photo

ミックステープ3枚で鮮烈デビュー

ウィーケンドこと、エイベル・テスファイは、そもそもどのような出自でR&Bシーンに現れ、ここまでビッグなシンガーになったのか。この点について探るには彼のファースト・アルバム『Kiss Land』ではなく、それ以前に発表されている3枚のミックステープまで遡る必要があるのはご存じのとおり。大ヒット中の最新作のサウンドも元を辿れば彼の音楽キャリアの原点といえる「ミックステープ時代」にベースがあるのだ。
2010年、彼は、トロントでの完全なる無名時代にプロデューサーのジェレミー・ローズと作り上げたサウンドをベースに、最初のミックステープ、『House Of Balloons』の制作に取り掛かる。そして、このミックステープからの3曲がYouTubeにアップされると、瞬く間にブロガーの間で話題となり、その後ドレイクのマネージャーが自身のブログで紹介したり、ピッチフォークやニュー・ヨーク・タイムズを初めとしたメディアで取り上げられたりという流れを通し、英米のインディ・リスナーの間で一つのセンセーションとなっていった。結果的に『House Of Balloons』はガーディアン、ピッチフォーク、ステレオガムなど多数のメディアで年間ベストのトップ10入りを記録し、800万以上のダウンロード数を記録、後を追ってリリースされた『Thursday』、『Echoes Of Silence』も高評価を得るに至った。

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当時北米のヒップホップ、R&Bシーンは、大物プロデューサーや先輩ラッパーらの手を借りずに作られた独創的なミックステープをきっかけにバズを獲得していくアーティストが多く登場し群雄割拠していた時代。ドレイクのアルバム『Take Care』に参加したことも手伝ってウィークエンドもまた、そうしたミックステープ・シーンの隆盛の流れに乗り、一枚もアルバムをリリースすることなくファンベースを広げ時代の新たな寵児となっていったのだ。翌2012年春のコーチェラでの、観衆からの大熱狂によって迎えられたパフォーマンスはその象徴的な出来事として挙げることが出来るだろう。

R&Bの新潮流の中で見せた斬新なサウンド

ではその3枚のミックステープのどこに、メディアの高評価を、そして熱狂的ファンベースを獲得できる要因があったのか。まずはそのサウンドの革新性にあろう。
当時、ヒップホップ、R&Bのシーンは2008年のカニエ・ウエストの『808’s & Heartbreak』、その後のドレイク、キッド・カディらの登場などをきっかけに内省的でダークな雰囲気の作品が多く発表され、それが一つのトレンドとなっていた。彼らのサウンドはロックをも参照点とすることで得られる陰鬱さ、そしてサイケデリックな雰囲気が特徴であった。楽曲のサンプリング元自体がインディ・ロックであることも多く、代表的な例として、ドレイクのブレイクのきっかけとなった『So Far Gone』(2009)におけるのティアーズ・フォー・フィアーズピーター・ビヨーン・アンド・ジョン、チャイルディッシュ・ギャンビーノのグリズリー・ベアスレイ・ベルズ、フランク・オーシャンのMGMTレディオヘッドなどが挙げられる。更にそれだけでなくカニエ・ウエストは2010年の傑作『My Beautiful Twisted Dark Fantasy』でボン・イヴェールのジャスティン・ヴァノーンを、ドレイクも『Take Care』でジェイミーxxを招聘し、ますますヒップホップ、R&Bとインディ・ロックの境界線は曖昧になり、R&Bの新たな潮流が起きていたのは明らかであった。そして、それを象徴するように、 “オルタナティブ・R&B” あるいは、 “PBR&B” という言葉が欧米で生まれ、この新たなR&Bサウンドを形容するのに使われた。

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そんな中にあって、ウィーケンドも例外ではなかった。彼が『House Of Balloons』のトラックの中でサンプリングとして使用したのはスージー&ザ・バンシーズ、ビーチ・ハウス、ナイン・インチ・ネイルズ、コクトー・ツインズなど。彼もまたR&Bの枠に留まらないジャンルレスなサウンドを作り上げようとしていた点で、こうしたシーンの新たな潮流の中で頭角を現してきたといえる。

 「House of Balloons / Glass Table Girls」のサンプリング・ネタとして使われた2曲

    

しかし、そうした流れに乗りながらも、彼がイランジェロ、ドク・マッキニーという2人のプロデューサーの力を借りながら完成させたサウンドは、彼がポーティスヘッドなどをフェイヴァリットに上げていることが象徴するように、従来のR&Bとは一風異なる一貫して退廃的で、インダストリアルな雰囲気のもの。そしてBPMをグッと落とした圧倒的にスロウなピッチも彼ならではだ。彼は2013年のComplex誌のインタビューで「ボーカル・スタイルはR・ケリー、マイケル・ジャクソンやプリンスにインスパイアされている。(でも)プロダクションやソングライティングは全くR&Bにはインスパイアされていないよ。」と語っており、あくまでも彼の作品に占めるR&B的領域はほんの一部分だということがわかる。そうした当時としては斬新であったサウンドに、洗練されたヴォーカル・メロディ、そして、まさにマイケル・ジャクソンを彷彿とさせるハイトーン・ボイスが乗っかることで、ウィークエンドは結果的にプリンスやアッシャーなどの系統ともいえる本格的なR&Bシンガーとして、シーンの中で一歩抜きんでる実力を示すことが出来ていたといえる。

マッチョイズムを排した世界観により幅広い支持を獲得

では、彼らに受け入れられた要因はただインディ・ロックそのものもサウンドの引用源としていたことだけなのかというと、そういうわけではない。それまでヒップホップやR&Bに一定の距離感を抱いていたリスナーを夢中にさせたのは、従来のマッチョイズム的な雰囲気を排した彼らの世界観であろう。その点において、その道の先駆者ドレイクやウィークエンドとほとんど時を同じくして登場したフランク・オーシャンは、 “ドラッグ” 、 “セックス” 、 “女性” などをテーマに扱いながらも、そこでのスタンスはひたすらに「いかに自分が強いか、金があるか」を語るなんてことはなく、むしろ自分の弱々しさを臆することなく露わにしたり、叶わぬ恋の結末を儚げな歌声でエモーショナルに表現するなど、従来のヒップホップ、R&Bの雰囲気とは一線を画すもの。こうした、従来インディ・ロックがお得意としていた「内省的なテーマ」も手玉に取ることで、彼らは別ジャンルのリスナーのハートも射抜くこととなったのだ。加えて彼らに共通する品の良さ、より女性に寄ったリリック、徹底した美意識によるカリスマ性あるステージングなどは熱狂的な女性ファンを多く獲得するのにもつながった。

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ウィークエンドの場合も多くの楽曲において “ドラッグ”、 “セックス” が題材でありながらも、結局はそれらの裏にある虚無感や孤独感が露わにされる点において、こうした傾向は一致しているといえる。更に、この後のメジャー・デビュー作『Kiss Land』においては、ミックステープ3枚での成功による劇的な変化により、その陰鬱さは男女関係を超え彼自身の置かれた状況全般へと広まった、より追い詰められたものになってしまうのだから尚更だ。
ウィークエンドはサウンド、リリックの両スタイルにおいて従来のR&Bアーティストが足を踏み入れられなかった領域に達していたことがわかっていただけただろう。

“新時代のキング・オブ・ポップ” への欲望が生んだ新作

3枚のミックステープを経て、2013年彼はメジャー・デビュー作『Kiss Land』をリリースする。結果全米2位とデビュー作としては十分なヒットとなるも、彼は決して満足していなかった。それだけでは物足りなかったのだ。
実際、この時点で彼にはシングル・チャートで100位以内にランクインするヒット曲が一曲もなかった。国土的にも、音楽的にも広いお国柄だ。いくら800万を超えるダウンロード数を記録しても彼はこの段階では前述のとおり、「オルタナティブなシーンでのカルト的スター」でしかなかった。それ以前のミックステープでのスタイルを踏襲したサウンドは、何よりダーク過ぎるし、チャートで上位に上ってくるにはメロディのキャッチ―さも足りない。ラジオでのエアプレイも稼げず、この「メジャー・デビュー」はファンが広がる決定的な転機とはならなかったのである。デビュー時からこの頃まで、インタビューもほぼ断っていたというのも、一般のリスナーにとってはストレンジャーであった状況にダメを押していたかもしれない。

新たなウィークエンドの契機となった2曲

     

そこでこの後彼が選んだ方向性は紛れもなくR&Bの枠を飛び越えたポップ・スターの地位だ。昨年夏のアリアナ・グランデとの「Love Me Harder」での共演を皮切りに、原作本がセンセーショナルなヒット作となっており話題作となるのは間違いなしであった映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に「Earned It」を提供。よりメインストリームのシーンに名を馳せていくこととなる。
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こうした流れを音楽的に後押ししたのは、もちろんR&B畑の人物ではない。00年代以降、ブリトニー・スピアーズケリー・クラークソンピンク、そして最近ではテイラー・スイフトなどの数多くのポップ・ソングに携わってきたメインストリーム畑の人物、マックス・マーティンである。ウィークエンドは自身の転機となった「Love Me Harder」のソングライターである彼に力を借りつつ、しかしウィークエンド自身もしっかりとソングライティングのプロセスにコミットする形で、ポップ・スターとなるための音楽的な新機軸を固めていく。そして生まれた曲がこの特集の冒頭で登場した大ヒット曲「Can’t Feel My Face」だ。これまでにない動きの広くメリハリの効いたメロディ、クールでわかりやすいサビのフレーズはポップ・ソングのお手本そのもの。そして、サビに近づくにつれ絶頂へと向かっていくファルセット・ボーカルなどウィークエンドの持ち味もしっかりと生かされている。この、エッジの効いたサウンドとエモーショナルなボーカルの交錯は新作においてマックスが参加したもう一つの楽曲「In The Night」にも現れているが、「Dirty Diana」をカバーしていた彼のマイケル愛はようやく完璧に形になってように思えてならない。
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強調しておかねばならないのはこの新作『Beauty Behind The Madness』においてウィークエンドはR&Bの枠から抜け出し、よりメインストリームの世界で通用するポップ・サウンドを手に入れようとするのだが、それでもアルバムのちょうど中間地点に登場する「Can’t Feel My Face」以上にアッパーなチューンはなく、この新生ウィークエンドを象徴する一曲でさえこれほどまでに作りこまれたポップ・ソングでありながらもBPMは108と少し抑えめ。それまでのダウン・テンポ路線からは脱却していないといえる。そういった意味でも、新作はミックステープ時代の盟友、イアンジェロとも再びタッグを組むことで、ダークで、ダウナー、退廃的といったウィークエンド独自の雰囲気を大きく残しており、彼本来の魅力を全く失っていない。新時代のキング・オブ・ポップは、彼自身のキャリアの根っこにある「オルタナティブな、新しいR&Bの潮流」の根っこからその延長として生まれたということを断言することが出来る。ポップ・スターとしての野心たっぷりのウィークエンドはニュー・ヨーク・タイムズでの最新インタビューでこのようなことを語った。「最近の子供たちにはマイケル・ジャクソンがいないんだ。プリンスも、ホイットニーも。この現代において誰がそういう存在になれる?」

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