[Album Review] The Maccabees – Marks To Prove It ~自らを深く見つめ手にした、美しきしるし

大きな飛躍を果たした前作でのツアーも東京・大阪ともに小さなハコでのライブに終わってしまったこともあり、日本では派手なイメージは皆無といってもいいかもしれない。しかし、マッカビーズは00年代のバンド・ブームの波が一段落した後、「冬の時代」とも揶揄されるまでの状況になっていたUKロックシーンの真中で、ボンベイ・バイシクル・クラブ、フォールズらと同様、着実に成長し、長期的な意味での成功を収めている数少ないバンドである。

本国では前作がバンド初のトップ5入りを果たし、アリーナ・クラスの会場でプレイするまで成長していた彼らのキャリアも、気付けばデビューから約10年近くが経ち中堅の域に入ったのだ。 そんな彼らが遂に全英1位を獲得した新作は、そうした彼らのいまにふさわしく、自らの育った場所を見つめ、音楽的にもこれまでの彼らのバラバラだったピースをかき集めてそれを美しく骨のある作品に再構築した快作である。

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本作を制作するのに要した3年近くの期間を、バンドは自分たちの育った地であり、リハーサル・スタジオもあるサウス・ロンドンのエレファント・キャッスルというエリアで過ごしたという。本作のタイトル・トラック「Marks To Prove It」では、MVの中でその街の一日の、とりわけ夕方に移っていく時間帯が捉えられている。また、アルバムのアート・ワークもそのエリアで撮られたものらしい。交通の要所であるこのエリアは、移民や貧困層が多く住む一方、大規模なショッピング・センターなど派手な再開発も進んでいるという背景を持つ。

本作において彼らは、そうした変わり続ける街の景色の中に深くは刻まれないような小さな出来事を描いている。喧騒から離れその日の出来事にメランコリックになる男、年月を経ても変わらぬある一つのロマンス……。それらはテーマこそバラバラだし、決してわかりやすいあらすじなどを持ったものではない。しかし、ここで単にストーリーを語るわけでなく、それぞれのシーンの背景にある美しい風景を合わせて丁寧に描写することで、その曲の持つ世界により一層哀愁を持たせている。それは例を書き出すなら「Kamakura」での「ゴミ箱に止まっているカモメ / 皆、冬を迎えられるように / 海はさぞ荒れているに違いない」や「Silence」での「この世の英知と忍耐力を集めても僕にとっては無駄だった / それが僕が関係を終わらせたとき / それが海に漂い流れて行ってしまうのを眺めてた」などキリがない。

また、アルバムの中で唯一といっていいほどにポジティブな楽曲である「Something Like Happiness」は、とにかくそのタイトルを象徴するように、そしてアンセミックなメロディをさらに掻き立てるように、聴く者を強く駆り立てるような言葉選びが素晴らしい。「愛しているならそう伝えるんだ / 何度も何度も繰り返しね / チャンスを逃したなんて、そんなことあるものか」と、アルバム終盤に向けて強く大きくギアを上げさせているかのようだ。しかし、それにも関わらずその後の3曲では「僕らは何をしてしまったのだろう」(Pioneering Systems)、あるいは「彼はまだ考えている / 彼の船がいかに道を辿ってきたのかを / よりよくするために壊してしまおう」と過去を顧みる「Dawn Chorus」など、再びリリックのトーンが落ち着き返ってしまうのも印象的。そこにはアルバム全体の隠れたストーリー性さえ感じてしまう。こうした点からも、前作で健在だったリリック・センスはしっかりと自分のものになっているようにも思える。

サウンドはといえば、大雑把に使い鳴らされた言葉でいってしまえば、彼らにとっての「キャリアの集大成」と呼ぶべきもの。このバンドはこれまで、性急なドラミングとギターのストロークを基にした、タイトでコンパクトなギター・ロックによるファースト、それをより深めたセカンドがあり、そして彼らがシンプルなギター・サウンドのみならず壮大なアート・ロックをも書けることを証明した、彼らのいまの地位を決定付けた作品でもある、前作『Given To The Wild』があった。

その「集大成」という言葉の象徴たる曲といえるのが、オープニング・ナンバーである「Marks To Prove It」である。性急なビートこそ初期のサウンドを思い起こさせるが、そこにギターのストロークを闇雲に合わせることなく、リヴァーヴも多用し層のある音作りになっているのが特徴といえる。そう、ここに彼らを大きな存在にした前作で手にしたアイディアがしっかり利用されている。そして、本作の一つのハイライト、「Something Like Happiness」は「アーケイド・ファイアみたい」なんて声も聞こえてくるが、この曲において彼らは決して大きく新境地を開こうとしたわけではない。ここにはデビュー作の「Toothpaste Kisses」に代表されるような、初期のフォーキッシュな音が聴き取れるのだ。この曲も、そうした初期的な部分を、前作で手にした壮大なサウンドを作る手法とマッチングさせることによって成立しているといえる。結局は、いままでの彼らの成し遂げてきたことが形になっているということだ。

確かに、「Spit It Out」や「Pioneering Systems」で大きくフィーチャーされたピアノ、あるいは「Silence」、「River Song」で聴くことが出来るホーンなど彼らが新たな武器を手にしている瞬間は何度かあるが、それらは本作の部分部分をより美しくするために使われた一つ一つの要素に過ぎず、前作からの大きな飛躍というまでには及ばないだろう。

しかし、このバンドは長期にわたって骨の折れるような制作をすることで、自分たちが育ちいまでも過ごしている地を、そしてバンドのこれまでを、誰よりも見つめてきたように思える。勢いあるギター・ロックや初期2作でより顕著であったフォーキッシュな面を、前作で得た壮大なサウンドスケープを用いる方法によってより磨きをかけ、それらの別々のものにも思えた音楽要素をまとめあげたこの成果はその象徴だろう。それは、この5人の集大成、いやこれまでの総決算ともいえる。この『Marks To Prove It』は、彼らが地に足を付け、いままでの自分たちの成し遂げてきたこと(It)を証明(Prove)するためのしるし(Mark)なのだ。(山本大地)

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マークス・トゥ・プルーヴ・イット (The Maccabees) マークス・トゥ・プルーヴ・イット (The Maccabees)
The Maccabees

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