[Album Review] Shamir – Ratchet ~さまざまな垣根を越えた現代版ポップ

シャミール・ベイリー20歳。 “今年随一の注目新人” 、彼がそうスポットを当てられるようになったきっかけといえるEP『Northtown』、そこからのシングル「On The Regular」 は、第三世界的な雰囲気の濃い『Alular』期のM.I.A、あるいはアジーリア・バンクスの「212」のように、独特の強いパンチがありつつも、リズム感といい、そこに軽快なラップが乗ってくる点といい、00年代後半以降にシーンに現れた “最先端” のポップ・サウンドを想起させ、そういう意味で至極モダンなものであった。

そしてそれはデビュー・アルバムとなる本作『Ratchet』でも同様だ。では、その個性的でモダンなサウンドはどこから来ているのか。本作はそこにしっかりと広いルーツがあることを感じさせる一枚だ。

全体的には90年代のシカゴ・ハウス的なリズムが目立つのだが、幼いころから音楽一家で育ちさまざまな音楽に触れ、一時期はカントリー・ミュージックを演奏、16歳のころにはパンク・バンドを組んでいたという経歴なだけあって、他にもいろいろなジャンルの影響が感じ取れる。まず「On The Regular」や「Call It Off」で顕著なカウベルの使い方、ベース音のノリのよさには00年代以降のDFA周辺のディスコ・パンクの雰囲気がある。さらに要所要所ではラップもあるし、「In For The Kill」でのトランペットや上品かつ丁寧なボーカルからはソウル、R&Bの色さえも強く出ている。多様なジャンルが混ざり合った本作は一つのジャンルへカテゴライズすることを拒んでいるかのよう。

シャミールというアーティストを語るうえで忘れちゃいけないのは彼のハイトーンなカウンターテナーのボーカル、そして女性とも間違えられることが多いという中性的なルックスだ。カラフルかつ彼のルックスも強調されたMVからもうかがえるように、彼はその個性を武器にしているように思える。それは彼と同じポップ畑からはラ・ルー、ジャンルは違えどインディ畑からはチューン・ヤーズを思い起こさせる。

もちろんユニセックスなボーカルやイメージもそう思わせる理由のひとつではあるのだが、そこに広いルーツを土台にしたカラフルで折衷なサウンドが相まることで、彼の作品はここまで個性的になったのだ。
さて、 “ユニークさ” を獲得した本作であるが、結果的には至ってポップである。「幅広いルーツの融合による、独特でありながらもポップなサウンド」。その点において “シャミール流ポップ・ミュージック” は、今年の新人では、民族的なサウンドからヒップホップ~最先端ビートメイカーまで幅広いルーツを基にオリジナルなサウンドを作り上げるイベイー(奇しくも同じXLレコーディングス所属だ)のそれとも共通しているようにも思える。おそらく、これが2015年の一つのポップの形なのかもしれない。
また、ジャンル、性別の括りさえも超えたようなアーティストが最先端のポップ・サウンドを形成するというのも、ジェンダーフリーな感性が一般的となりつつある今においては現代的と言えよう。彼の生まれ育ったアメリカの全土で同性婚が合法となったこの週末に本稿を書き上げる筆者は、そんな風に付け加えたくなった。

text: Daichi Yamamoto

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