HTE的フェス夜話 ~其の二:フェスはシーンを写す鏡

北米でコーチェラやボナルーをはじめ、その名前がいわばブランド化したフェスも多く登場した00年代。イギリスでは既に長い歴史を持っていたロック・フェスが、とうとう世界的な「市民権」を獲得するようになった。その要因は、第1話でも触れたように、インターネットの発展によりウェブキャストが当たり前になったり、フェス特有のファッションなど新しい時代ならではの楽しみ方が発信されるようになったりして、”レジャー“としてのフェスに対する関心が高まったせいだと思うが、特に音楽好きにとっては、フェスの根幹といえば何といっても充実した出演者のラインナップだろう。そして、フェスのラインナップには、否が応でもその年その年の直近のシーンの空気感が反映される。HTE的フェス夜話、第2話では今年2015年のシーンの空気感はどのようなものか、それがどのようにフェスにあらわれているか、上半期の音楽シーンを振り返りながら見てみたいと思う。

傑作多数、活況を見せる2015年のシーン

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2015年のシーンの空気は、ここまでのところ何ともポジティブ。上半期、アメリカではチャート1位の座だけ振り返ってみると、ほとんどの期間マーク・ロンソンとブルーノ・マーズによる「アップタウン・ファンク」が占有していたわけだが、その下では、年を跨いで強い存在感をみせるテイラー・スウィフトやデヴ・ハインズとの共作で新たな方向を見せカムバックしたカーリー・レイ・ジェプセンをはじめ相変わらずメインストリームのチャートを盛り上げる女子の強さや、ウォーク・ザ・ムーンやフェティ・ワップ、UKでのイヤーズ&イヤーズなどの新たなブレイクも印象に残った。
そして復調を見せ始めているロック・シーンの中では、アラバマ・シェイクスが新作で全米1位を獲得、更に、既に前作の時点で本国イギリスでは大きな地位を獲得していたフローレンス&ザ・マシーンは新作で全英・全米両チャートを制覇するなど、若手の快進撃が目覚ましい。それに対して、若手が元気ならこっちも負けちゃいない、とばかりの「ベテランのカムバック」にも脱帽だ。90年代に “ライオット・ガール・ムーヴメント” の担い手であった頃よりも、更に力強いエッジを発揮しているスリーター・キニーを筆頭に、ブラー、フェイス・ノー・モアらの、ブランクを全く感じさせない新作も確実に今年を代表する作品の一つとなりそうだ。
10年代ここまで、ロック以上に活況ぶりが目覚ましかったヒップホップ、R&B界隈では、年明けからドレイク(この後アルバムも出る予定だ)、ケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパーなど昨今のシーンを盛り上げてきたアクトがこぞって期待通り、あるいはそれ以上の作品を残している。更にエイサップ・ロッキーやタイラー・ザ・クリエイターら10年代を象徴するシーンきっての役者たちも、その熱い支持に見合った快作をリリース。この後、カニエ・ウエスト、ミゲル、フランク・オーシャン、ウィーケンド、新人のヴィンス・ステイプルズら期待のリリースが続くことも考えると、今年もヒップホップ、R&Bに期待を寄せずにはいられないだろう。
更に、北米からはHTEウェブでもPick Upで紹介した注目のトバイアス・ジェッソ・Jr.やナタリー・プラス、豪州からはコートニー・バーネット、UKからは間もなく待望のアルバムをリリースするウルフ・アリスなど前評判通りかそれ以上の活躍を見せる「新人勢」、スケプタの活躍や多数の新人の登場によって再び湧きつつある「グライム」、昨年から徐々にメインストリームにも攻撃をしかけつつあり、先月には初のコンピをリリースしたPC Music周辺を初めとした「ネットを端に発するシーン」などなどインディ/アンダーグラウンドシーンからも気になる動きは挙げればきりがない。

何よりシーンの充実ぶりを象徴するのが、前述のアーティストたちの多くの作品 ―スリーター・キニー『No Cities To Love』、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』、コートニー・バーネット『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』、加えてJamie xx『In Colour』、スフィアン・スティーヴンスの『Carrie&Lowel』、ファザー・ジョン・ミスティ『I Love You, Honeybear』に、リリースの時期が時期だけに今年のリストに入ってくるであろうディアンジェロの『Black Messiah』、など― が、批評メディアのレビューの点数を平均化するサイトMetacriticにて共通して90点台やそれに近い点数を残しているという事実だ。レビューのスコアというのはあくまでもライターや批評家の主観を以てつけられる数字ではあるが、この平均的な高評価を以てすれば、堂々とこれらの作品を「皆が口をそろえて傑作といいたくなるほどの素晴らしい作品」であり、「歴史的な評価を獲得しうる作品」と括ることが出来るだろう。そうした作品が既に多数登場しているという事実は、明確に2015年のシーンの活況ぶりを表しているといえる。

次世代の顔を中心に、シーンの活況を反映した今年のフェス・ラインナップ

Coachella Poster

フェスと言えば“ロックバンドが華”というイメージを持つ人も少なくないと思うが、ここ数年はロック・シーンの元気のなさと連動するように、フェスに関してもロック・アクトのブッキングには決してポジティブな言葉たちだけでは語れない状況があった。ここ5年くらいのフェスのヘッドライナー定番のロック・アクトといえば、アークティック・モンキーズとアーケイド・ファイアを筆頭に、ミューズ、キラーズ、キングス・オブ・レオン、マムフォード&サンズに頼りっぱなし。そのあとに続くのはブラック・キーズ、QOSTAがその役目を任せられるようになってきたかどうか(UKではビッフィ・クライロも)といったところだが、いずれもキャリアを考えれば大ベテランであり、フェスの次の顔となる“新たなヘッドライナー”の不在には、オーガナイザーたちも頭を悩ませていたはずで、ラッパーやポップ・アクトに良くも悪くもその穴を埋めてもらっていたのが現実といえよう。
今年はそのロック・アクトのブッキングに変化が見られることに注目だ。前述のアラバマ・シェイクスとフローレンス&ザ・マシーン、そして前作「Lonerism」で決定的評価を獲得し、次作からの新曲が出るたびに評判のいいテーム・インパラという、「今年発表される新作でコケなければ大きくその地位を上げていけそう」であったこの若手3組がしっかりと結果を出していることに、「新たなヘッドライナー」の登場に渇望していたフェス・シーンが反応、すでに多数のフェスにブッキングされている。それも、ラインナップにおける位置をヘッドライナーかその下の位置という好スロットにまで押し上げての出演だ。シーンでいい作品を残し、批評家の中だけの小さな動きではなくリスナーにも評価され地位を上げた若手アクトが、フェスという実際にファンが足を運ぶ場所でもその地位を着実に上げ、各地でラインナップを盛り上げる役目を果たしているのだ。何ともいい流れである。
今年のフェスの世界的な傾向としてもう一つ注目したい点は、これらのロック・アクトに加えてドレイク、ケンドリック・ラマーら「インディ・ファンにもうけるラッパー」がヘッドライナーとして各地のフェスに次々と出演を決めていることだ。ここ数年に渡ってインディ・ロックシーンも巻き込みながら発展してきた新世代のヒップホップのその動きは、世界規模で、フェスという「現場」での、好スロットでの出演という「形」を以て、決定的になったともいえる。ジャンルを超えて活況を見せるシーンの動きがフェスのラインナップに顕著に表れている。
他にもUSからはラナ・デル・レイ、ウィーケンド、UKからはアルト J、ロイヤル・ブラッドやジェイミー Tなど台頭する若手は他にも多数で、前述のコートニー・バーネットやファザー・ジョン・ミスティらと共にラインナップを盛り上げる。これら若手にAC/DC、メタリカ、エルトン・ジョン、フリートウッド・マック、ザ・フーなど大御所が華を添えるなど、続々発表される世界各地のフェス・ラインナップは明るい話題が絶えない。

地域セットで動く最近のラインナップ事情と…

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さて、日本でもフェスシーズンが近づいてきて、活況に沸く2015年のシーンの顔となる上記のような旬なアーティストをまとめてみたいなと思うのが音楽好きの心。フェスのラインナップに「この人来る!この人は来ないのか!」と一喜一憂するのも「毎年恒例」といった感じであるが、もちろんそのブッキングには大人の事情もいろいろあることに触れておきたい。
世界中で多数のフェスが開催されるようになったことで、フェスシーズンは各アクト、「ここの大きなフェスに出たついでに近くの国のフェスにも出る」というパターンで、フェス・サーキットをワールド・ツアーのように周るようになっている。ここ日本の場合には、通常のツアーもそうだが、フェス・サーキットはオーストラリアや韓国のフェスとセットで組まれることが多い。つまり、日本のフェスと近い日程で出演予定があると、「もしかして日本にもくるかも…」と予想できるというわけだ。(フェスのラインナップ予測で、すでにそういった情報をチェックしている方も多いだろう)。
ところが、日程的・地理的に可能であるにもかかわらず、来日することの無いアーティストもいる。当然、興行であるので、充分な集客が期待できないとなると、わざわざ来日しないのは仕方がないと思う。しかし、フェスという場は、「別のアーティスト目当てで来ていたお客さんが、それまで興味の無かったアーティストを偶然見かける」といった形で新しい音楽に出会う絶好の場でもある。そういう場に、欧米のフェスで「常連」のようにヘッドライナーをこなしていたキングス・オブ・レオンやキラーズが出ることがなく、彼らの人気が世界中で盛り上がっていた空気に乗れないままきてしまったことは、いまだに彼らの人気に日本国内と世界での格差がある原因である気がしてならない。今年「顔」となっている前述のアーティストたちが、もしキングス・オブ・レオンやキラーズの二の舞を演じてしまうとなると、ただでさえ不況の日本の洋楽シーンにはより大きなダメージとなることは疑いもない。活況な2015年のシーンの明るさが、日本で共有されないまま終わってしまうのかもという懸念も拭い去ることができない……。

text:Daichi Yamamoto

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