Florence + the Machine 〜ドラマチックな女、フローレンスの魅力

わたしはイギリスの女の子たちが大好き。「“女子はおしとやかに”なんて言うステレオタイプはくそくらえ!」と言わんばかりに、クラブ帰りにはメイクが剥がれ落ち、ハイヒールを脱いで裸足で路上を歩く、そんなエキセントリックな姿がとても愛おしい。
「あなたが殴ってきたから、わたしもお返ししたの/暴力的なキスでも何もないよりはマシよ」ーー力強くアグレッシブなサウンドに、過激でユーモラスな歌詞を乗せた「Kiss With a Fist」で2008年にデビューしたフローレンス・アンド・ザ・マシーン。そのPVの中でウェーブのかかったジンジャーヘアを激しく揺らしながら暴れまくる女の子こそが、バンドの中心人物、フローレンス・ウィルチだ。
text:栗原ちひろ

Florence + the Machine

エキセントリックなブリット・ガールの快進撃

彼女はそんな“風変わり”な行いも受け入れるイギリスが生んだ女性アーティスト、リリー・アレンやエイミー・ワインハウスのようなエキセントリックなブリット・ガールの系譜を由緒正しく受け継ぐひとりとして注目を集める。
その翌年に活躍が期待されるミュージシャンを選ぶ「BBC Sound of 2009」にノミネートされ、見事3位を獲得。そんな前評判によって高まる期待を物ともせず、リリースされたファースト・アルバム『Lungs』は、全英チャート5週連続2位をキープ。前述の「Kiss With a Fist」のようなロックサウンドを前面に押し出した楽曲もあれば、「Rabbit Heart(Raise It Up)」のようなハープの音色を引き立たせるシンフォニックな楽曲もあったりと、それぞれの曲の個性や力強さが前面に押し出されていた。
2010年には本作からのシングル・カット「Dog Days Are Over」が、ジュリア・ロバーツ主演の映画『食べて、祈って、恋をして』に使用され、海を越えたアメリカでも知名度を上げる。その年のブリット・アワードでは、リリー・アレンやカサビアン、ディジー・ラスカルを抑えて見事「最優秀ブリティッシュ・アルバム賞」を受賞するのだった。

快進撃を経て、女神へと変貌

目覚ましい快進撃を見せていた彼女は、2011年11月にさらに自分らしさを手にしたかのようなセカンド・アルバム『Ceremonials』を発表し、ついに全英チャート初登場1位を獲得するなど国民的なアーティストとして成長を遂げる。
ティーンエイジャーと大人の狭間でもがいていた前作から、ひとりの人間として大人の女性に成長していく過程で切り離せないさまざまな問題がテーマになっているとフローレンス自身が語っているように、アルバム全体に祝祭ムードが漂う壮大な一作となっている。
彼女自身がインスパイアされたという作家のヴァージニア・ウルフや、画家のフリーダ・カーロといった激動の人生を送った女性たちから着想を得た歌詞など、より深い趣のある作品でもある。
また、ちょうどこのころからファッション界からも注目が集まり、雑誌『ヴォーグ』でシャネルのカール・ラガーフェルドが直々に写真を撮り下ろしたり(日本版でも表紙に!)、その縁で2012年春夏のプレタポルテのショーで彼女はライブを披露している。
また、元グッチのクリエイティブディレクター、フリーダ・ジャンニーニはフローレンスからインスピレーションを受けたと公言しており、彼女にステージ衣装を提供するなど、デザイナーとミューズの関係は数年に渡って続いた。
こうしてアーティストたちに影響を与える、まさに「女神」として、他の女性アーティストとは一線を画す存在になる。2012年には、ようやく日本での初来日公演も実現し、日本のファンにもその神秘的な存在感を知らしめることとなった。

強さも弱さも受け入れて辿り着いた3作目

充電期間を経てリリースされた3作目『How Big, How Blue, How Beautiful』は、セカンド・アルバムに続き2作連続で全英チャート初登場1位を獲得。約1年間のヴァケーションを「堂々巡りをしていて、幸せな気持ちにはなれなかった。精神的にも不安定だった」と振り帰るフローレンス。ステージから離れたことで、改めて自身と向き合った際に芽生えた感情が本作には反映されているようだ。
彼女が今作のテーマだと語る「自分を取り巻くもの、世界からいかに背を向けずに愛するか」は、アルバム1枚を通して聴くことで具体的なイメージをわたしたちに抱かせる。延々と広がる青く美しい海。そこには一隻の船がぽつんと浮かぶ。その船は荒波や強風に容易に負けることもなければ、必死に抗うこともしない。それはまるで、自分ではコントロール不可能なな世界を受け入れているかのように……。そんなシーンが頭の中のキャンバスに広がるアルバムだ。
性急なサウンドにエモーショナルな歌声を乗せた「Ship To Wreck」や、ドラマチックなイントロのギターリフとコーラスが印象的な「What Kind Of Man」など、生命力にあふれる力強さの中に、壊れやすくもろい繊細さや儚さが同居しているようだ。自分の“強さ”も“弱さ”も、ありのままの世界に背を向けず、その運命さえも愛していこうとする強い意志が、彼女の言葉、声、音から強く伝わってくる。

決して悲劇のヒロインにはならない、ドラマチックな女性

では、なぜわたしたちは彼女の音楽に魅了されるのか?その最大のポイントは、彼女の言葉には聴く人をその歌詞の世界へと引き込む、強い力が宿っているからではないだろうか。
例えば「Dog Days Are Over」の“振るわなかった日々にはもう終わり”という言葉には、そっと背中を押してくれる優しさがあるし、「Shake it Out」の“すべてを、全部を振り落として”と繰り返し歌われるラインには、暗闇を振り払うような、生きる喜びを感じるような生命力に満ちている。「Never Let Me Go」の“このまま離さないで、つかまえていて、もうどこへもいかないで”という切なる願いは、愛する誰かを思わずにはいられないほどに胸が締め付けられる。「What Kind Of Man」“たった一度のキスで燃え上がり、その後20年もその人を思い続けた”という物語には、ひとりの男性に囚われてしまった破滅的な女性の姿が容易に想像できて胸が苦しくなるほど。彼女の紡ぐ物語はいつでもリスナーの感情にそっと寄り添う。それは決して悲しみや苦しみを嘆く悲劇のヒロインとしてではなく、すべてをドラマチックに展開する力に変えていく力強さ。その姿はどんな嵐にも負けない一輪の花のように凛として美しくあり続けるからこそ、より多くの人が彼女の歌に共鳴するのだろう。
そうなると生でフローレンスの歌声が聴きたいと思う人も多いのではないだろうか。海外のフェス、コーチェラやグラストンベリーではヘッドライナーにも負けないパフォーマンスを見せているが、残念ながら日本では彼女の姿を拝むことができたのは2012年の初来日のみ。このままでは、ブラック・キーズやキングス・オブ・レオンといった日本と海外の知名度がかけ離れたアーティストのひとりになってしまう。日本盤のリリースも、まだ先ではあるが予定されているようなので、一刻も早く来日公演で彼女の歌声が聞けることを祈りながら本稿を締めたいと思う。

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