[Album Review] Kendrick Lamar – To Pimp A Butterfly ~新たなリーダーの強い決意とメッセージ

 2014年はアフロ・アメリカンにとって歴史的な年になった。米国内で相次いだ白人警官による黒人青年の射殺、そして白人警官への不起訴の審判は、全米規模に抗議の声を広げ、それは1992年のLA暴動以来となる規模にも及んだ。ブラック・ミュージック界では実際にデモに加わるアーティストも多く、ベテランのQ-ティップやラン・ザ・ジュエルズでも活躍中のキラー・マイクらに加え、白人ラッパーからマックルモアなどもデモを先導するような形で加わった。こうした動きに影響を受けた楽曲も次々に公開されていたことも記憶に新しい。昨年末急遽14年ぶりの新作を発表したディアンジェロは「音楽を通してメッセージを伝える」ためとしてわざわざリリースを前倒したという。そして本稿で扱うケンドリック・ラマーもまた、この歴史に残る「変化」を求める動きに呼応したラッパーの一人だ。

 K-ドットの愛称でも親しまれる彼の特徴といえば、特に貧困の度合いが高く治安も悪い街、コンプトンで育っていながらも、ギャングスタラップにありがちな「ドラッグ・セックス・暴力」といったキーワードが離れないストリートの暮らしを決して賛美することなく、むしろ彼自身ギャングを批判したり、ドラッグが街に蔓延しなくなることを望むそのスタンスだろう。筆者からしてみれば彼は、「クラスでヤンキー・グループに属していながらも、実は少し真面目で、地味目なやつらとも優しく絡んでくれたアイツ!」を思い出させる…。

 本作はアートワークが示すように政治的でより強いパワーを持っており、サウンド、リリックどちらの面でもスケールが大きく、より多くの人に向けて訴求力がある作品となっている。そして前作での自身の経験を内省的に、比較的静かなトラックに乗せてラップする彼の姿は影を潜める。

 傑作アルバムと評される前作『Good Kid, M.A.A.D City』でドレイクと並び新世代ラッパーの王者となった彼だが、このシーンにおける「王者」の地位が決してポジティブな意味ばかり持つわけでないことは歴史を遡れば明らかであろう。オープニングの「Wesley’s Theory」ではDr. ドレーが「成功し名声を得ることは難しくないが、それを持続させるのが難しいんだ」と説く。続いて、70年代に全米で大ヒットした、黒人の奴隷問題を描いたドラマ『ルーツ』の主人公で、黒人の社会への抵抗の強いシンボルである「クンタ・キンテ」を準えたファンク・ナンバー、「King Kunta」。クンタ(Kunta)のそうした位置づけと、シーンの中でも社会の中でも影響力を持つこととなったケンドリック(King)の地位を重ねながら、自身の葛藤を表現する。

 こうした部分で決して本作は全体的に社会的なメッセージのみに終始することなく、彼自身のいまの境遇と関連させながら展開されていく辺りがリアルでもあり、余計に説得力を持ってリスナーに響きやすくも感じる。

 「問題提起」のような形の主張が続いた前半とは打って変わって、終盤では「i」など、黒人たちを強く鼓舞する、未来に向かってのポジティブなメッセージもみられる。その極みにあたるのが、クライマックスとなる「Mortal Man」(=死ぬ運命にある男)だ。キング牧師、ネルソン・マンデラ、モーゼらの名を挙げながら、最後には、故2パックとの疑似インタビューを収録。彼らに続いて新たにアフロ・アメリカンの声の代弁者となったケンドリックの野心とその決意が強く表れている。
 
 さてここまでリリックを中心に語ってきたが、さすがはケンドリック、そして歴史に名を残すであろう本作。ヒップホップ・ファンでなくともサウンド面だけで夢中になれてしまうトラックも満載だ。それもそのはず、クレジットを見てみればそこには前述の大物ラッパーたちのみならず、P-ファンクの創始者ジョージ・クリントンや、若手からフライング・ロータスやロバート・グラスパー、そして更にはスフィアン・スティーヴンズ、レディオヘッドやアイズレー・ブラザーズのサンプリングなどインディ・ロックファンも惹きつけるような名前がそろっているのだ。

 しかしこうして多くのアクトをフックアップしながらも、前述のフライロやグラスパーにラッパー兼サックス奏者のテラス・マーティンを軸としたジャズに接近したサウンドに終始した印象がある。そうすることで、作品全体の方向性は全くブレず、ジャンルレスに様々なサウンドを巧みに融合してしまう辺りもケンドリックの知性とセンスが現れているし、カニエの『My Beautiful Twisted Dark Fantasy』と並ぶ2010年代のヒップホップの大傑作と呼びたくなる所以がここにある。
 
 期待を大きく超えた本作だが、ヒップホップの歴史を正統に踏みながらもジャンルレスなサウンド・メイキング、そして時代を反映したその強いメッセージ性が強く生きた傑作だ。ジョン・レジェンドがスピーチで引用したニーナ・シモンの言葉「いま我々が生きている時代を反映させることは、アーティストの責務である」を改めて思い出す。(山本大地)

※4/2 12:50 一部加筆・訂正
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